農家経営・経営講座

集落営農簿記W
集落営農組織(人格のない社団)の簿記・決算・申告等・実務における留意点

このテキストは、兵庫県福崎農業改良普及センターが、管内の集落営農組合のために作成したものです。

目次

1 集落営農組合とは
2 「人格のない社団」に対する課税の特徴
3 収益事業とは
4 33種類の収益事業のあらまし
(1)物品販売業
(2)物品貸付業
(3)不動産貸付業
(4)製造業
(5)請負業
5 収益事業に係る所得計算上の留意点
(1)所得に関する経理
(2)費用又は損失の経理
(3)収益事業の資本
(4)収益事業に属する固定資産の処分損益
(5)補助金等の収入
6 収益事業の税務
(1)収益事業開始の届出などの手続き
(2)法人税の申告調整
 ア 交際費の損金不参入
 イ 固定資産取得のための国又は地方公共団体からの補助金収入(益金不参入)
 ウ 税額計算し直しのための調整
(3)法人税の税率
(4)地方税の税率
 ア 県民税・市町村民税
 イ 事業税
(5)税務申告の実務
 ア 法人税申告
 イ 県民税申告
 ウ 市町民税申告
(6)消費税について
(7)所得税の源泉徴収のあらまし
(8)集落営農組織から構成員が受ける利益に対する構成員の税務
 ア 役員手当、作業労賃・・・・給与所得
 イ 集落営農組織からの配当金・・・・雑所得
 ウ 集落営農組織を解散したときに受け取る清算分配金・・・一時所得

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1 集落営農組合とは

 法人格を有しない集落営農組合は、「人格のない社団」にあたり収益事業を営むときはその収益事業に対して法人税を課されます。
*「人格のない社団」とは
 1 共同の目的のために結集した人的結合体であって
 2 団体としての組織を備え
 3 そこには多数決の原理が行われ
 4 構成員の変更にかかわらず団体そのものが存続し
 5 その組織によって代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているもの(昭和39.10.15最高裁判例)であり、いわゆる民法上の任意の組合にはあたりません。
* これよりこのテキストでの[集落営農組織]という表現は、法人格のない集落営農組織に限定して取り扱います。

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2 「人格なき社団」に対する課税の特徴

 「人格のない社団」については、各事業年度の所得のうち収益事業から生じた所得についてだけ法人税が課税されます。(法7)

人格なき社団の事業
収益事業以外の事業から生じた所得 収益事業から生じた所得
非課税です 課税されます
申告の義務があります

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3 収益事業とは

 収益事業とは法人税法施行令に掲げてある33の事業で、継続して事業場を設けて営まれるものをいいます。(基通15−1−6)

*収益事業に付随して行われる行為
1 収益事業の所得の運用による利息(預金利息)などの収入
2 収益事業に属する固定資産(農業機械等)の譲渡などの収入
3 補助金や助成金などの収入・・・・・ただし、固定資産の取得に充てるために交付を受けた補助金等については、収益事業の収入になりません。(基通15−2−12)

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4 33種類の収益事業のあらまし

33種類の収益事業のうち集落営農組織に関係のあるものを掲げると次のようになります。

(1)物品販売業 (基通15−1−9)

 集落営農組織が直接栽培した農産物を、直接不特定又は多数の者に販売する行為は物品販売業にあたりますが、当該農産物を特定の集荷業者に売り渡すだけの行為は、物品販売業つまり収益事業にあたりません。
 具体的に言うと、集落営農組織が栽培した米を農協に卸売りする行為は収益事業として課税しないということです。
*間違えやすい事例
・農産物を市場に出荷する行為・・・・・・・物品販売業にあたります
・保有米として組合員に販売する行為・・・・物品販売業にあたります。
・大豆を加工して農協に卸売りをする行為・・製造業にあたり収益事業として課税の対象となります。

(2)物品貸付業 (令5@W)

 集落営農組織が、農家にトラクター等農機具を貸し付ける行為は物品貸付業にあたり課税の対象となります。

(3)不動産貸付業 (令5@X)

 集落営農組織が、建物又は土地を貸し付ける行為は不動産貸付業にあたり課税の対象となります。

例:倉庫を集落に貸し出しその利用料金10万円を受け取った。

(4)製造業 (令5@Y)

 集落営農組織が栽培した農産物等を作業場等の施設で加工して卸売りする行為は製造業にあたり課税の対象となります。

例 生産した大豆と米で味噌をつくり農協に卸売りをした。

(5)請負業 (令5@])

 集落営農組織が、農家等から委託された農作業(耕耘、田植え、収穫等)等の行為は請負業にあたり課税の対象となります。

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5 収益事業に係る所得計算上の留意点

 収益事業から生ずる所得に関する経理と収益事業以外の事業から生ずる所得に関する経理とを区分して経理することを求められています。(令6)

(1)所得に関する経理 (基通15−2−1)

 所得に関する経理とは、単に収益および費用に関する経理だけでなく、資産および負債に関する経理を含むことに留意します。しかし現実の集落営農事業において資産および負債まで区分経理する事は不可能であり、減価償却費として合理的配分基準で区分経理することになります。

(2)費用又は損失の区分経理 (基通15−2−5)

 収益事業と収益事業以外の事業とに共通する費用又は損失の額は、合理的配分基準で区分経理します。


総事業 収益事業以外の事業 収益事業
収益 100 40 60
費用(償却費以外) 50 20 30 直接配分、又は合理的配分基準による配分
償却費 20 8 12
差引所得 30 12 18


非課税事業 課税対象

(3)収益事業の資本 (基通15−2−3)

 集落営農組織が、収益事業を開始した日において収益事業に属する資産および負債として区分経理した場合の両者の差額は、資本の元入額として扱われます。

(4)収益事業に属する固定資産の処分損益 (基通15−2−10)

 原則として収益事業の損益に含まれますが、相当期間(おおむね10年以上)にわたり固定資産として保有していた土地や建物・構築物などを譲渡、除却などにより処分した場合は収益事業の損益に含めないことができます。
 機械、車両、工具器具備品等の処分損益は、収益事業の損益となります。

(5)補助金等の収入 (基通15−2−12)

 国や地方公共団体から交付を受ける補助金、助成金等の収入の取り扱いは、次のようになっています。

1 固定資産の取得又は改良に充てるために交付を受ける補助金等の額は、その固定資産が収益事業に使われるものであったとしても収益事業の収入になりません。(益金不参入)
2 収益事業の収入や経費を補填するために交付を受けた補助金等については、収益事業の収入になります。
(注)1の補助金等により取得した固定資産の償却限度額又は譲渡損益等の計算基礎となる取得価額は、実際の取得価額による。

 これを具体例で示すと、次のようになります。
 A集落営農組合は、国又は地方公共団体から補助金100万円の交付を受け200万円のトラクターを取得しました。
 この場合、税務申告の際には100万円の補助金収入は益金不参入つまり無いものとみなしてくれます。
 さらに減価償却計算において圧縮記帳は必要とせず、200万円の取得価額をもって計算の基礎価額とすることができます。
 このことは人格のない社団であるところの集落営農組織にとってまことにありがたいことであり、現在の集落営農組織における資産と負債の差額であるところの資本分の何割かはこの結果の留保金と考えられます。

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6 収益事業の税務

(1)益事業開始の届出などの手続き

 集落営農組織が新たに収益事業を開始した場合には、次のような届出や申請をすることになっています。
1 収益事業開始の届出
2 棚卸資産の評価方法の届出・・・・棚卸資産が無い場合要りません
3 減価償却資産の償却方法の届出
4 青色申告書の承認申請・・・・・・青色申告をしないときは要りません
5 給与支払い事務所等の開設届出
 これらの書類はとても簡単なものです。

(2)法人税の申告調整

 集落営農組織の損益と法人税法上の損益とを調整する手続きです。
 法人税申告用紙別表4において調整しますが、集落営農組織において調整する内容は下記に掲げる程度のものです。

ア 交際費の損金不参入

 国は基本的に交際費というものを損金として認めたくない考え方を示しています。(大企業では交際費が認められていません)
 集落営農組織程度の組織であれば交際費の80%は損金として認めてくれますが、残りの20%は認めてくれません。ということは、その金額だけ課税される金額が増えることになります。

集落営農組織における交際費の事例
・会議で大名弁当(約3,000円以上)を配った。
・特定のグループで宴会(飲食等)を行った。

イ 固定資産取得のための国又は地方公共団体からの補助金収入(益金不参入)

 前述のとおり、この収入金額は法人税法上の益金にあたりません。(基通15−2−12)
 つまりこの金額だけ課税所得金額が減ることになります。 ラッキー

ウ 税額計算し直しのための調整

 貯金等の受取利息収入はすでに税金(国税15%、県税5%、計20%)がすでに差し引かれた残金として計上されています。そこで、これを元に戻して税額計算をあらためてやり直す必要があります。もちろん控除された金額は税額控除で支払税金から差し引かれます。
上記1、2、3の調整を別表4で行い、この結果得られた課税標準額を基礎として下記に掲げる税率等により法人税等の計算を行います。

(3)法人税の税率 (集落営農組合における)(法66@、A)

所得800万超 30%
所得800万以下 22%

(4)地方税の税率

ア 県民税・市町村民税

税  目 元入金の金額  均等割    法人税割
県民税 1,000万 以下 20,000 法人税額の5%
1,000万 超 50,000
市町村民税 1,000万 以下 50,000 法人税額の12.3%
1,000万 超 130,000

イ 事業税 (県の税金です)

所得800万超 9.60%
所得400万超800万以下 7.30%
所得400万以下 5.00%

例で理解を深めましょう。

 A集落営農組合(元入金900万円)の平成12年度の収益事業の所得は400万円でした。このときの課税額を計算してみましょう。

 税額計算事例 (課税所得400万円の場合)

科  目 課税標準 × 税率 課税額
 国税 法人税 4,000,000 × 22% 880,000
地方税   県民税
   法人税割
   均等割
  880,000 × 5%
44,000
20,000
市町民税
   法人税割
   均等割
  880,000 × 12.3%
108,000
50,000
  事業税(県税) 4,000,000 × 5% 200,000
1,302,000

 課税の合計額は130万2千円でした。
 なお、この県市町村民税の均等割額は、たとえ経営が赤字になっても支払わなければならない税金です。

* 集落営農組織が各種税金を納めて差引0になる課税所得は約102,000円です。

(5)税務申告の実務

ア 法人税申告 (税務署)

 提出書類:貸借対照表、損益計算書、減価償却計算明細等関係書類
別表1、別表4、別表5(1)、別表5(2)
上記書類は必ず提出しなければならない書類といえます。
上記書類以外に必要に応じて別表6(1)、別表8,別表15,別表16(1)の書類を提出します。

イ 県民税申告(県財務事務所)

提出書類:第6号様式、第6号様式別表4の4

ウ 市町民税申告 (市役所・町役場)

提出書類:第20号様式

 集落営農組織の申告における上記書類の作成はそれほど難しいものではなく、少し研修を受ければ誰でも出来ます。

(6)消費税について

 消費税については、このホームページ上での[人格なき社団であるところの集落営農組合のための消費税講座]を参照してください。

(7)所得税の源泉徴収のあらまし

 役員に報酬・手当を支払ったり日雇い賃金及び給料等を支払うときには、その支払者は所得税を徴収して国(税務署)に納付することになっています。
 この所得税を徴収して国に納付する義務のある者を「源泉徴収義務者」といい、集落営農組織もこれにあたります。

 給料などについて、所得税を源泉徴収する場合には、次の書類が必要です。
・源泉徴収簿
・扶養控除等申告書
・源泉徴収税額票
・所得税徴収高計算書
 これらの書類は税務署の窓口に備え付けてあります。

(8)集落営農組織から構成員が受ける利益に対する構成員の税務

ア 役員手当、作業労賃・・・・・・給与所得

 これら以上の収入については各種ケースがありますので、別途ご相談ください

イ 組織からの配当金 ・・・ 雑所得(所得税法:基通35−1−(7))

 人格なき社団からの配当金は、受け取った人にとって雑所得にあたり課税の対象になります。
 課税の対象といってもすぐに課税されるのでなく、まず、その人自身の他の所得と合算して課税標準を構成します。その金額から所得控除額を控除して、その残額(課税所得)に税率を適用して課税額が算出されます。
 ですから他に所得がない人、またはあっても所得控除額が大きい人にとってこの配当金額(雑所得)はあまり影響がないといえます。

ウ 集落営農組織を解散したときに受け取る清算分配金 ・・・ 一時所得(所得税法:基通34−1−(6))

 これは、集落営農組織を解散して新たに農事組合法人を結成するときに発生します。このとき各構成員が受け取る清算分配金は一時所得に該当します。
 一時所得とは、賞金・馬券の払戻金のような一時的な所得です。一般農家に関係するような一時所得というと特別立法措置に基づく転作奨励金等があります。(奨励金等でこの特別立法措置に基づくかどうかはよく調べて下さい。)
この一時所得には50万円の特別控除額があり、さらに課税標準の計算時においてその残額の2分の1だけが課税の対象となります。

(ア)清算分配金が50万円の時
 (500,000−500,000) × 1/2 = 0
(イ)清算分配金が100万円のとき
 (1,000,000−500,000) × 1/2 = 250,000
 課税対象となったからといってすぐに課税されるわけではなく、他の所得と合算され課税標準を構成します。さらにその金額から所得控除額が控除され、その残額(課税所得)のなかで税額計算に影響を与えることになります。

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